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時代小説、映画、JAZZ、それらを大人の楽しみとして愛でること。雨の夜の鴉のごとく、耳鳴りとともに日々の悪夢に苛まれつつも。

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江戸の禍福-藤沢周平「霜の朝」

「霜の朝」

藤沢周平「霜の朝」
(新潮文庫)


この短編集には昭和49年から56年にわたって書かれたものが集められています。
なかには初期のものも含まれていますが、おおむね藤沢周平が円熟期に入ったころの作品が主になっています。
全11編、初期のころにあった、匂い立つように鮮明な風景描写は少し影をひそめたとはいえ、言葉が言外のものを吸って円くなり、人の機微に自然に出入りする筆はすでに練達の域です。
収められた短篇はさまざまな色合いを持ち、それぞれに短篇の妙味が味わえる構成です。
あまり悲劇的な結末に終わらないのも読後にさわやかな感じを残していいですね。
とくに印象に残ったもの、しみじみ考えさせられたものをふたつ。

「禍福」

大店の履物屋、井筒屋のやり手の手代だった幸七は、今はしがない小間物の行商人に落ちぶれていた。
近頃は品物もさっぱり売れず、行商の帰りに井筒屋時代に取引のあった店の旦那に会うと、5年前の借金の話を持ち出される始末。
幸七は身の不運を嘆くほかなかった。
その不運のきっかけは女房のいそえを知り合ったことから始まったと幸七は考えていた。
井筒屋の手代だっとき、井筒屋の一人娘との縁談が持ち上がったのだが、
そのときにはいそえと言い交わす仲となっていて、とても離れられる状態ではなかった。
いそえは妊娠もしていた。
幸七はその話を断るしかなく、その後、朋輩の手代長次郎が井筒屋の主に収まることになる。
幸七はいたたまれず他の店へと移った。
だが移った店はあっけなく潰れ、
喰う金に困った幸七は小間物の行商を始める。
俺の不幸はいそえを選んだときから始まったと、幸七の冴えない日々は続く。
そんなある日、もとの井筒屋で朋輩だった竹蔵とばったり会い、
井筒屋の若夫婦のその後の話を聞かされる。

「禍福は糾える(あざなえる)縄の如し」そういうことわざがあります。
禍(わざわい)が福になったり、福が禍の元になったりして、この世の幸不幸は繰り返す。
幸と不幸は縄を縒り合わせたように表裏をなすものという意味ですが、
この短篇はそのことわざがもとになっていると思います。
話の最後に今の今まで俺は不幸だと思っていた幸七が、
手に入るはずだった幸福がじつはそうではなかった。
そしてなんの疑いもなく自分の人生についてくるいそえの言動にもほだされて、
今ある自分の状況にささやかながら幸福を見いだして終わります。
ちょっと自分の身辺にこの物語を引き寄せてみると、
なかなか深い味わいのものとなります。
禍福にまつわるこのことわざを短篇の骨子として当てはめ、
そして最後になるほどと思わせ、やがてしみじみとした気持ちにさせる。
なかなかこんな風に仕上げることは出来ません。
じつに見事な手際です。

「霜の朝」

奈良屋茂左衛門はある朝、
探りに出していた宗助から宝永通宝が廃されるとの報告を聞く。
宝永通宝は金銀の含有率を大幅に引き下げた悪銭であった。
将軍徳川綱吉は、その差益で幕府の増収を図ろうとしたが死去。
家宣にと政権は代わり、宝永通宝は側用人の間部詮房、侍講の新井白石らによって廃されたのである。
その宝永通宝の新鋳を請け負っていたのが、
奈良屋茂左衛門のライバル紀伊国屋文左衛門であった。
紀伊国屋はこれで終わりだな、と奈良屋は思った。
そこにはひとつの時代が終わったことの寂しさと、
金に執着してきた己れの人生への虚しさが入り混じった複雑な感慨があった。
奈良屋は紀伊国屋と張り合うように競ってきた豪遊の日々に思いを馳せる。

奈良屋茂左衛門は材木問屋として幕府の中枢とつながって巨富を積み上げ、
江戸に奈良茂ありとまでもてはやされた豪商。
紀伊国屋文左衛門も同じ幕府御用達の材木商人で、
東叡山寛永寺における根元中堂の建立によって巨富を築いた人物です。
ふたりはライバル関係でしたが、
遊びの面でも競い合った仲で、吉原などでの豪遊伝説は数知れずと言われています。
この小説は、なんとなく葛飾北斎と安藤広重のライバル関係を描いた
「旅の誘い」や「冥い海」を彷彿とさせます。
遠くでお互いを認めあうが、近づこうともしない。
ただお互いを意識する感情だけが高まっていく。そういう関係ですね。
併せて読むと面白いかもしれません。
ただこの小説ですごく印象的なのはお里という女の子と宗助ですね。
彼らのことは短篇ですからばっさり省いてありますが、
彼らの言葉や振る舞いがとても際だっていて、
奈良屋の持つ金というものをいっぺんにうさんくさいものにします。
霜の朝という題は冷え始めの意味もあると思いますが、
土が霜で浮いているんですね。
踏むとぐっと沈む。
金を追いかけてきた奈良屋や紀伊国屋の、そういう危うさも表しているんじゃないかと……
奈良屋が吉原でお大尽遊びをして、小判をばらまきます。
だがそのばらまいた小判を拾わない女の子がいることに奈良屋は気づき、
お前は小判を拾わないのか、と声をかける。
十二歳のお里は答えます。

「お金は働いてもらいます」

このセリフぐっときます(笑)

そのほかの収録作品

「報復」
「泣く母」
「嚔」
「密告」
「おとくの神」
「虹の空」
「追われる男」
「怠け者」
「歳月」

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2008-10-28(Tue) 01:12| 藤沢周平の世界| トラックバック 0| コメント 0

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