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時代小説、映画、JAZZ、それらを大人の楽しみとして愛でること。雨の夜の鴉のごとく、耳鳴りとともに日々の悪夢に苛まれつつも。

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どん底の花-乙川優三郎「椿山」

「椿山」

乙川優三郎「椿山」
(文春文庫)


3編の短編と表題作の中編の4作を収録したこの作品集、
平成10年刊行ですから、乙川優三郎のものとしては初期のもの。
しかし精緻な筆に乗せた乙川ワールドが存分に展開され、
読むものを虜にします。
この中から後年の作品に繋がったものがあるような感じです。
さてこの作品集。
女性を主人公にした短編3題が印象的です。
これが「ほどよく暗い短編」の白眉といってもいいです。
ちと大げさか(笑)

「ゆすらうめ」

16のとき越後から身売りされてきたおたかは、
その器量で売れっ子の娼妓となったが、
6年が過ぎ年期明けが目前に迫っていた。
娼楼の女主人の弟である番頭の孝助は、
おたかが堅気になったときの仕事まで世話する。
孝助は色町での暮らしから抜け出したいと考えていたが、
自分ではどうすることもできず、
おたかがこの先無事に堅気になれるかどうか、
それに己れの行く末を賭けているところがあった。
堅気となったおたかと、この町を出る。
そんな夢も孝助にあったかもしれない。
やがておたかは年期が明け、孝助の世話した茶店で働き始める。
だがすぐに越後から兄がやってきて、おたかに金の無心をする。

結局おたかは実家からの金の無心に応じ、
わずか3日の堅気暮らしの後、海老屋に舞い戻ります。
孝助が金を用立てるといっても聞かず、
家族のことだからと、自分の意思で再び娼妓になります。
海老屋に戻ったその日、そこには紛れも無く臈たけた娼妓のおたかがいます。
自分を身売りした女衒の錦蔵を艶然と誘い、そして孝助に微笑みかける。
菩薩です(笑)
孝助はその姿に後押しされたような気分になるというのですが、
それもどうだかわかりません。
自分で道をつけることもできない。どうも男はだらしない(笑)
ゆすらうめはサクランボに似た赤い小さな実をつける果樹です。
梅桃、山桜桃梅とも書きます。
小さな赤い実が少しの風にも揺れる様子からこの名前がついたのかも知れませんね。
姿ははかなげですが、ゆすらうめの性質は強健で暑さ寒さに強く、虫にも強い。
おたかの姿なんでしょう。きっと。

「白い月」

博打の魔にとり憑かれた亭主の借金の尻拭いで、雨中を金策に走るおとよ。
かざり職人の友蔵はおとよの死んだ母の面倒を死ぬまでみたが、
おとよの母の薬代に困り、博打に手を出してから、
病み付きになり転落の一途を辿る。
おとよは母親の残した、友蔵はいい人だから大事にしなければならない。
その言葉を守って別れないできたが、
博打の借金がもとで、暮らしは追い詰められ、すでに限界まで来ていた。
おとよは働き、自活しようとする。そして友蔵と別れようと決める。
そんなある日、所在が分からなくなっていた友蔵から言付けが届く。
のっぴきならなくなって江戸を離れるので、
金を都合してくれというものだった。
おとよは放っておこうと思った。
だがおとよは待ち合わせの場所に現れる。
自分の髪を売った金を持って。

友蔵は二股道を右に行くのか左に行くのか、
風に押されて決めるようなところがある男。
そんな友蔵に愛想を尽かしながら、おとよは別れることができない。
一緒になった当初の幸せだった頃、
その頃の友蔵の良さが忘れることが出来ないおとよ。
友蔵の善の部分だけに引きずられていることに気づいていない。
最後に一年待ってくれ、
必ず帰ってくるからと友蔵は言う。
そのまるで当てのない言葉に、
おとよは一縷の希望を持ったように微笑む。
また一からやり直せるかも知れないと。
その当時女が髪を切ったらもう外へは出られない、
働くことも出来ないわけです。
なんなんでしょうね、この尽くしようは(笑)

「花の顔(かんばせ)」

わずか三十石の下級武士の家に嫁ぎ、
姑のたきにいじめ抜かれ、気の休まるときのなかったさと。
舅の死をきっかけに姑のたきが惚けはじめる。
夫と長男は江戸にいて留守で、
徘徊に排泄物垂れ流しと、刻々と病状が進む姑とふたりきりの、
凄まじい暮らしが繰り返される。
近所づきあいも断たれ、
助けてもらうことも相談することも出来ず、
さとは疲れ果て、
もう姑を殺して自分も死のうと思い詰める。
雪の降る晩。
たきを殺そうと寝所に行ったさとは、
たきが寝所の縁側に座り、呆然と雪を見つめている姿を見つける。

今でいう介護の問題がこの短篇では書かれています。
姑のたきもまた、嫁いでから姑にいじめ抜かれ、
気の休まるときがなかった。
雪見など落ち着いてできる状態ではなかったというわけですね。
だから巡っているわけです。
そのことにさとは気づいて、ふっと心を緩ませる。
介護の問題は永遠のテーマですが、
当時の武家の社会に持ってくると、
また違った、じつに厳しい面が現れてきます。

この3つの小説。
娼妓、職人の女房、下級武士の妻と、
住む世界も置かれた位相も違いますが、
小説の最後にたたずむ3人の女の姿は、
不幸のあとさき無く、救いも絶望もお構いなしに、
ただそのとき、どん底に咲く花のように微笑んで、
ただただ優しい。そう思います。
乙川ワールドですね。これが。

最後の表題作「椿山」は不条理な身分社会から這い上がろうとする若い武士を描いた好編ですが、
いかんせん結末が性急すぎて腑に落ちず。
強烈な残り香を放つ前述の女3題、
そのどん底の花の前に、
あえなく霞んでしまいました(笑)

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2008-11-08(Sat) 02:44| 乙川優三郎の世界| トラックバック 0| コメント 0

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