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時代小説、映画、JAZZ、それらを大人の楽しみとして愛でること。雨の夜の鴉のごとく、耳鳴りとともに日々の悪夢に苛まれつつも。

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人の人生を思って忍び泣く-乙川優三郎「喜知次」

「喜知次」
乙川優三郎「喜知次」
(講談社文庫)


乙川優三郎の初期の長編です。
題名からしてあまり食指が伸びなかった、というのが正直なところです。
どうも中身が想像できない感じでしたので。
本の題名というのは不思議なもので、
読者にとって激しくそそるものもあれば、
何となく近寄りがたいというのもあるわけで、
本の題名いかんで売り上げも違うでしょうし、
大げさに言えば本の題名というのは、
その一冊の本の命運を握るキャスティングボードです。
もちろんこれには個人差がありますが。
だからわかりやすく万人が読みたい、
そう思わせる題名というのは意外にむつかしいものだということになります。
でもまあこの「喜知次」
乙川優三郎だから外れはないだろうと、
気を取り直して読み始めたわけなんですが、
いや見事に泣かされました。最終章で(笑)
本の中に出てくる人の人生を思って忍び泣く、
というのは何年ぶりでしょうか。

小太郎は藩の祐筆物頭日野弥左衛門の長男。
あるとき6歳になる女の子、花哉が家に貰われてくる。
両親が亡くなったので父親が引き取ったのだ。
小太郎は黒目の大きなその女の子に喜知次というあだ名を付ける。
喜知次というのはキンキという魚の異名で、
目が大きく飛び出た魚である。
小太郎は喜知次と庭の菊を摘みながら、
愛らしい妹が出来たことに宿命的なものを感じ、
同時にくすぐったいような喜びを感じる。
時おりしも藩は2つの勢力に分かれ、暗闘を繰り返していたが、
そのあおりで、藩内に大規模な一揆が起こり、
藩の重職たちはその鎮圧に苦慮していた。
小太郎は城下の知明館に通い、
同塾の牛尾台助と鈴木猪平と身分を越えた友情で結ばれていた。
そのひとり、郡方である鈴木猪平の父親が、
一揆の鎮圧の際、無惨に殺されるという事件が起こる。
父親を殺され、少ない家禄まで半減された鈴木家の苦難が始まり、
小太郎と台助は猪平を励ましながら、
事件の真相を探っていく。

この小説の主人公小太郎は、「椿山」の主人公、才次郎を彷彿とさせます。
違うのは、幼い頃に歪みきった武家社会の身分制度の過酷さを、
嫌というほどたたき込まれ、出世欲を燃やして、
どんな手段を使ってでも這い上がろうとした才次郎と違い、
小太郎は藩政の要は農にあると考え、
祐筆物頭というお城勤めの家柄から、
郡方という農民とじかに接する現場の役人へと降りていく。
結果的に藩の中枢に登り、改革をしたいと考えているわけですが、
そのベクトルは反対です。
そういう志を持って、成長していく小太郎、
次男ゆえに商人になろうとする台助、
そして自分の父親を殺した犯人を見つけ、
なんとか仇討ちをしたいと、貧苦の生活に耐える猪平。
この3人の友情の行く末がこの小説のひとつの柱となっています。
似たような設定に藤沢周平の「蝉しぐれ」がありますが、
けっしてトレースしたのではない、乙川優三郎の描く清冽な友情があります。
物語はこの3人を中心に進んでいきます。
しかし誰がいったい猪平の父親を殺したのか、
藩内の抗争と相まって、物語の謎は深まっていきます。
それと同時に、成長する義妹の存在が小太郎のなかで日増しに大きくなり、
心の支えとなっていく。
これがこの小説「喜知次」の大きな伏線です。
喜知次とあだ名をつけられたが、他のだれにも喜知次と呼ばせない。
兄だけがそう呼ぶのを許す花哉。
この喜知次、まことに可憐です。
幼い頃、二人で庭の菊を摘む場面がでてきます。
その透明感溢れる描写に我知らず幼い喜知次に思い入れをしてしまいます。
物語の最終章になって大きなどんでん返しがあるわけなんですが、
喜知次が可憐であればあるほど、
そして芯の強さが分かればわかるほど、
皮肉な運命に黙ってつき従った喜知次の生涯を思いやって、
この最終章でもう忍び泣くほかありません(笑)

この小説、乙川優三郎の傑作だと思います。
くれぐれも題名の喰わず嫌いを恥じた次第です。

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2008-11-09(Sun) 18:37| 乙川優三郎の世界| トラックバック 0| コメント 1

コメント

良いお話でしたね。

上手にお話をまとめられるので、とても分かりやすいですね。
私はストーリーを要約することが出来ないので羨ましいです。
2005年の暮れあたりに、乙川優三郎さんの本をほとんど読みましたが印象の強い、とても良い作家さんですよね。

2008-11-11(Tue) 07:32 | URL | 光ちゃん #-[ 編集]

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