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時代小説、映画、JAZZ、それらを大人の楽しみとして愛でること。雨の夜の鴉のごとく、耳鳴りとともに日々の悪夢に苛まれつつも。

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名も無き人々の人生-藤沢周平「夜消える」

「夜消える」

藤沢周平「夜消える」
(文春文庫)


昭和58年から平成2年ごろに書かれた単行本未収の作品を集めたもの。
晩年期に位置する作品集です。
江戸の市井に生きる名も無き人々の人生を、
老練の筆で淡々と綴った短編集。
さして感動する話があるわけでもありません。
どちらかというと心が塞ぎそうな短篇が多い。
でも脳裏にいつまでも残る印象的な短篇がそろっていて、
藤沢周平の多彩な世界がうかがえます。
珍しい幽霊ものもありますし(笑)

「夜消える」

兼七は腕の良い雪駄職人だったが、
深酒が原因で雪駄を収めていた問屋にも見放された。
飯も食わず、風呂にも入らず、夜昼となく酒を呷り続ける。
廃人のような亭主のその姿に、
身体のなかに何か得体の知れないものが棲みつき、酒を欲しがっている。
おのぶは不気味な気持ちに襲われることがあった。
娘のおきみは酒浸りの兼七を嫌って、料理屋の住み込み女中になるが、
兼七はその支度金まで酒代にする。
だがそんな亭主をおのぶは見捨てることが出来なかった。
そんなとき娘のおきみに嫁入りの話が持ち上がる……

重度のアル中です(笑)
でもなぜ兼七がそんな風になったのか、説明はありません。
それが妙に不気味なんです。
ただ無惨な酒浸りの姿だけを描く。
ある日おきくと夫婦になろうかという男に、
自分に酒代を無心している父親の姿を見られる。
おきくは祝言は考えさせて欲しいと言われたとおのぶに泣きついてくる。
父親がいる限り嫁入りは出来ない、
おとっつぁんなんか死んでくれたらいいのにと泣く。
気がつけば、酒を買って帰ってくるはずの兼七が戻らず、
台所の上がり口には満杯になった一升徳利が置いてあった。
それっきり兼七はいなくなる。
夜の闇に消えてしまいます。
話を聞かれたんでしょうね。
三年後、無事に嫁入りした娘の幸福そうな姿を見ると、
ふと娘を憎む気持ちがよぎるおのぶ。
でもおのぶの気持ちより、
消えた兼七が気になって仕方ありません。
すでに常人ではない兼七が何を思って夜の闇に消えたか、
そしてどこへ行ったか。
娘にしてやれることは自分が消えること……
酒浸りではありませんが、同じ娘を持つ身ですから(笑)
いつ兼七になるとも限らない。
そう思うとどこか自分というものが頼りなく、
これがとても哀しい話だということが身に沁みます。

「踊る手」

ある日信次が遊びから帰ると、
裏店の隣家である伊三郎の家の前に人だかりがしている。
一家が夜逃げしたのだった。
何にも無くなった家の中に残されていたのは、
寝たきりの伊三郎のばあさんだけだった。
置き去りにされたのだ。
ばあさんはとりあえず長屋の女房たちが面倒をみることになり、
食い物を運ぶ。
しかし絶望している老婆は一切手をつけようとしない。
困り抜いた信次の母親は、信次に食べ物を運ばせ、
ばあさんになんとか食べさせて欲しいと頼んだ。
信次はそんな役に選ばれたことを誇りに思い、
ばあさんのところへ食べ物を運ぶのだが……

なぜか強烈な印象が残る小説です。
子供の信次の視点からこの小説は描かれています。
老婆と子供。この組合せで老いることの切なさが強調される。
子供にはなぜ置き去りにされるか不思議な訳ですから、
置き去りにされた老婆の絶望が余計ストレートに伝わってくる。
最後にひとまず落ち着いた伊三郎が、
おばあさんをこっそり迎えに来ます。
夜逃げしてもはじめからそのつもりだったんでしょう。
長屋の人々を当てにもしている。
ここらへんは人情ですね(笑)
そして題名の「踊る手」の由縁。
信次はばあちゃんを背中に紐でくくりつけた伊三郎と家の前で出会います。
ほい、ほい、ほいと伊三郎はおどけた足どりで、路地を遠ざかっていく。その背に紐でくくりつけられたばあちゃんが、伊三郎の足に合わせて、さし上げた両手をほい、ほいと踊るように振るのが見えた。
そして見送った信次も嬉しそうにほい、ほいと手を振り、
踊りながら家の中に入っていく。
なんかこの場面が書きたかったがために、藤沢周平はこの小説を書いた。
そんな気がしてなりません(笑)
じつに印象的です。

ちょっと心が塞ぎそうな短篇もありますが、
それでもこの作品集はたいへんわかりやすい、
理解しやすい物語が収録されているので、
ここから親しむというのもいいかもしれませんね。
なぜ藤沢周平が小説の職人といわれるのか、
この作品集を読むと腑に落ちると思います。
それにつけても読後、何日か経つと小説の中の情景、
たとえば突然夜の闇に消え、それっきり消息のわからなくなる男の後姿。
そういう情景が何かの拍子にふっと浮かび上がってくることがあります。
それが妙に寄る辺ない(笑)
後からじわじわとボディーブローのように効いてくる。
そういうところのある作品集でしょうか。

そのほかの収録作品

「にがい再会」
「永代橋」
「消息」
「初つばめ」
「遠ざかる声」

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2008-12-06(Sat) 18:26| 藤沢周平の世界| トラックバック 0| コメント 0

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