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時代小説、映画、JAZZ、それらを大人の楽しみとして愛でること。雨の夜の鴉のごとく、耳鳴りとともに日々の悪夢に苛まれつつも。

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哀歓の八景-山本一力「辰巳八景」

「辰巳八景」

山本一力「辰巳八景」
(新潮文庫)


2003年から2004年にかけて小説新潮に掲載されたものをまとめた短編集です。
人情小説の新しい書き手として登場してきた山本一力。
なぜかこの作品集ではいつもの一力節を抑えた感があります。
なぜなんでしょうね。小説新潮だからでしょうか(笑)
なかにはフォーカスが定まらないようなお話もありますが、
辰巳、すなわち江戸深川を題材に、
その時代、まさにそこに生きた人々の、
哀歓の点景を描いて、けっこう印象的な短編集でした。
それにつけても深川です。
時代小説の市井ものといえば本所深川あたりが舞台になることが多いです。
深川が職人などのいわゆる下層の町人が多く暮らす町であり、
吉原を凌ぐほどの隆盛を誇った花街があった町、
というだけでは説明不足の気がします。
時代作家がこぞって題材にする江戸深川という町は、
もっと奥深い魅力を持った町ということが言えそうです。

「仲町の夜雨」

深川冬木町の町内鳶の頭である政五郎は、
小網町に若い女を囲っていた。
女房のおこんも承知のうえだった。
おこんと政五郎は仲睦まじかったが、
おこんが二度流産したのち、次の子宝に恵まれる気配がなかったので、
子供の欲しかった政五郎は外に女を囲ったのだ。
すでに三十七になるおこんは、子供はもう諦めかけていたが、
それでも月のものが止まる兆候があり、
喜んで産婆のところへ駆け込む。
だが産婆から出た言葉は「もう上がりだよ」
という残酷な言葉だった。
あるとき小網町近くに火事があり、
政五郎はその若い女を心配したのか、
小網町へ行ったきり、一ヶ月近くも帰ってこなかった。
おこんはその妾のところへ行き、
政五郎の子を産んでほしいと、はっきり言うべきだと考えはじめる。

鳶の頭の内儀であるおこんが主人公なんですが、
そのおこんの姿がいいですね。
政五郎が若い妾のところへ行ったきり、帰ってこない。
心配した仲人の佐賀町の頭におこんは呼ばれます。
で、そういうときのあらたまった格好が、
髷は結わずにひっつめ髪。
そして厚手木綿の股引に半纏。白い鼻緒の雪駄という姿。
雪駄は深くは履かず、かかとがはみ出ている感じで、
チャラチャラと雪駄の底の尻鉄を鳴らして歩く。
今でも深川あたりの祭礼の日にはいそうな感じです。
なんというか艶でボーイッシュ。鉄火な感じです(笑)
深川は辰巳芸者の名前も男名前だったりしますから、
気っ風を売りにする鳶の姐さんだったらありうる姿です。
そういうおこんですが、子供が出来ないことで悩み、
もう女としては上がりだと産婆に言われてショックを隠せない。
それで若い妾のところへ行って、
どうぞ政五郎の子を産んで欲しいと言うべきかどうか。
さんざん迷います。
ようやく若い女のところへ乗り込んだおこん。
子供を産んでも本宅に取られることを怖れていた若い妾の気持ちを知って、
その帰り道、養子を取ろうと政五郎に相談することを決心します。
江戸深川門前仲町に降る夜雨が、
家路につくおこんを優しく包みます。
仲町の夜雨、この題名はやはり詩です。

「石場の暮雪」

居職の履物職人信吉の娘、輝栄は、
大横川小町とひそかに称えられるほどの美人だが、
女ながら股引半纏の職人の出立ちで、家業を手伝っていた。
雪駄づくりが面白くて仕方がない輝栄は、
とうとう二十四の年になるまで、独身を通し続けていた。
そんな輝栄が自分の家の前で、
ちょうど雪駄の鼻緒が切れて困っていた戯作者の卵、
一清と偶然に出会う。
雪駄を直す輝栄に一目惚れした一清は、
女には馴れておらず、そのうえ口べた。
それでも決心した一清は、
毎日欠かさず短い文を輝栄に届けるようになる。
輝栄もだんだん一清を意識するようになるが……

一清は山本一力自身の投影であるようです。
出来上がった戯作を出版元に持ち込むのですが、
出版元の手代はなかなか良い返事をくれず、
店の主人にも原稿を通さない。
なぜ手代がダメ出しをし、主人にも見せないのか、
そのあたりは自分の経験から書いているようですね。
物語の方はというと、
一清の恋文というのがこれがまたすごく短い(笑)
会うのも店先だけ。
でも毎日ですから少しずつお互いの気持ちが進展していく。
最後に一清は「あなたと祝言を挙げる日を毎日思い描いている」と短い文に書きます。
輝栄にとっても待ち焦がれていた言葉です。
でもそのとき、一家にとって大恩ある人から縁談が持ち込まれていて、
輝栄は迷います。
父親の信吉に打ち明けようとすると、
察した信吉は縁談は断ってやると言ってくれます。
年の暮れのある日、深川に初雪が降る。
輝栄は雪景色のなかを歩き、一清の家に行きます。
薄雪の積もった戸口を開けると一清が出てくる。
でも輝栄の姿を見て驚き、
緊張してなんにも言えない一清に輝栄は、
「ふつつか者ですが、よろしくお願い申し上げます」と。
このセリフ、なんだかちょっと鳥肌立っちゃいました(笑)

深川は富岡八幡宮の門前町として発達し、
花街も置かれた頃からいっそう華やかになります。
紀文や奈良茂などの材木商人が屋敷を構え、
全国から特産物が集まる湊でしたから、江戸の食文化の最先端地。
富岡八幡宮で最初の興業が行われた大相撲の出発点でもあります。
山東京伝や曲亭馬琴もこの地で生まれ、平賀源内や松尾芭蕉も住んでいた。
まあ、江戸の文化を代表する言葉である「いき」は、
この町から生まれたといっても過言ではありません。
江戸深川は文化の集約地、かつ発信地。
闊達で心意気にあふれた町だったんでしょうね。
そういう深川に住む人々の哀歓の八景。
この小説はいわゆる浮世絵の八景物に乗っ取って書かれています。
八景物とは、中国北宋の時代に成立した画題、瀟湘八景が基。
平沙落雁
遠浦帰帆
山市晴嵐
江天暮雪
洞庭秋月
瀟湘夜雨
煙寺晩鐘
この八つに倣って描かれた浮世絵で、
安藤広重の近江八景、江都八景なんかが有名です。
題名も佃島帰帆とか墨田暮雪とか、そういう風になってます。
この小説、ゆえに題名がすごく詩的ですね。
山本一力によって書かれた小説の八景。
なかなか乙 なものです。

そのほかの収録作品

「永代橋帰帆」
「永代寺晩鐘」
「木場の落雁」
「佃町の晴嵐」
「州崎の秋月」
「やぐら下の夕照」

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2008-12-11(Thu) 18:21| 山本一力の世界| トラックバック 0| コメント 2

コメント

時代小説

即物的な表現が多い中・・・時代小説の中にしかない言葉のいいまわし、叙情的な表現、せつない胸のうち・・・そういうおくゆかしさが人間に欲しいですね。

2008-12-12(Fri) 12:08 | URL | 松ちゃん #-[ 編集]

私が一番初めに読んだのは。「草笛音次郎」でした」、その後もイチリキさんをぽつぽつと読んでいます。
宇江佐真理がかなり好きでちょちょこと読んでいます。

2008-12-13(Sat) 20:59 | URL | suggie #GCA3nAmE[ 編集]

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