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時代小説、映画、JAZZ、それらを大人の楽しみとして愛でること。雨の夜の鴉のごとく、耳鳴りとともに日々の悪夢に苛まれつつも。

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荒波のなかの男と女-乙川優三郎「むこうだんばら亭」

「むこうだんばら亭」
乙川優三郎-「むこうだんばら亭」
(新潮文庫)


2005年に刊行された乙川優三郎の連作集。
「椿山」という短編集に収録されていた「ゆすらうめ」という作品がありました。
その主人公であった孝助のその後を綴ったものです。
舞台は房総の銚子近辺。
利根川の河口に近いうらさびしい土地です。
「ゆすらうめ」で孝助が助けようとした娼妓のたか。
それと同じ名前の女、たかをとある宿場で身請けした孝助は、
たかを連れてこの土地に流れ着き、
居酒屋「いなさ屋」を営みはじめます。
そして裏では女稼ぎの口入れ屋も。
貧しさに追いつめられ、もう身を売るしか術がない女たちが、
孝助を頼って「いなさ屋」を訪れ、そして去っていきます。
是も非もない生きることの荒波に翻弄され、
流されつつもしたたかに立ち向かう女たち。
そんな女たちを蔭で見守り、ときには冷たく突き放す孝助。
この連作は「いなさ屋」に関わる女たちと孝助の物語です。
だんばらとはダンバラ波のことで、
利根川の水と海の水がせめぎあって出来る大波のこと。
漁師たちにとって、ともすれば命を落としかねない危険な波です。

「男波女波」

農家に嫁いでいたゆうは、
身体が弱く役に立たないという理由で離縁される。
子供もあったが、置いてきていた。
生きるために何でもしようと、いなさ屋へ女稼ぎの口を頼んだが、
身体の弱いゆうには口が無かった。
孝助はゆうに、いなさ屋の手伝いをさせる。
表情が淋しく、要領も良くないゆうは客の受けも悪かった。
店の役に立ってないと感じたゆうは、
いつまでも孝助に甘えることは出来ないと考えていたが、
おいそれと身過ぎの道は見つからない。
それもこれも自分という女に自信が持てないからだとゆうは考える。
酔客に嫌われるゆうだが、ひとりだけ話をしてくれる男がいた。
外川の漁師である佐多蔵である。
佐多蔵もまた心に鬱屈を抱えていた……

ゆうは身体が弱いことで生きていくことが困難だと考えています。
それは我を抑えた生き方にもつながり、
女郎でも酌取りでも、なんでもやって生きていく、
そういう心の逞しさに欠けているわけです。
孤独でもある。
一方佐多蔵のほうは、
子供を流産したことが原因で女房に死なれている。
女房は明るく働き者で、佐多蔵も慈しみ仲も良かった。
だがその女房には佐多蔵には知らない世界があった。
幼なじみの男と関係していたことも分かる。
そのことにこだわり、佐多蔵は苦しんでいます。
そのふたりが出会い、少しずつお互いの傷を寄せ合い癒されていく。
なんでもないような小さな物語ですが、
その小ささゆえでしょうか、
挫折と絶望をふたりして越えていこうとする男と女の姿が、
なぜか印象深いです。
ゆうのために酔客と殴り合い、
ゆうに抱えられ、いなさ屋を去っていく傷だらけの佐多蔵。
男が守り、女が育てていく。
寡黙な海辺の土地で紡がれる小さな物語の最後は、
とてもぬくもりを感じます。

「果ての海」

孝助とたかがこの土地に流れ着き、
いなさ屋を始めて六年が過ぎた。
いなさ屋の二階に住むふたりだが、
孝助はたかを六年の間抱こうとはしなかった。
周りから夫婦のように思われているふたり。
武士の娘だったが、宿場女郎に売られたたかは心に負い目を持つ。
そして自分の身が汚れているから、
孝助が抱こうとしないのではと考えていた。
たかにとって孝助はすでにそばに無くてはならない存在だった。
それは孝助も同じだった。
あるときふたりが可愛がるいなさ屋の下働きの少女ぬいに、
身売りの話が持ち上がる。
たかは自分が貯めた金を出して、ぬいを助けたいと孝助に言う。
孝助はひとり助けても詮ないことだと、
取りあわなかったが……

孝助はいわば諦念に囚われて生きている男です。
若い頃から娼楼の番頭を勤め、
身体を売るしかない女たちの背後にある、
どうしようもない貧困という現実。
それを見てきた孝助はたしかに無力感を抱えています。
でもじつはひとりであっても救いたいと考えているはずなんです。
たかはその孝助の気持ちによって、
苦界から救い出されたわけですから。
どこか周りの人々を遠くから眺めているような孝助も、
たかやいなさ屋に関わってきた女たちに少しずつ動かされ、
変化していきます。
でもその諦念からどうしても解き放たれない。
孝助は何人も養子を取って育てる三味線弾きの師匠の家を訪ねます。
その師匠の言葉で、
孝助は己の不分明な気持ちに踏ん切りをつけます。
たかとぬい。
そのふたりを新しい家族として再生しようとする孝助。
期せずして房総の海に、
漁師たちが待ちわびていたイワシの大群が現れます。
活気づく漁場を見ながら、
孝助は新しい人生に踏み出していくことを予感します。
海にイワシの大群が来たと大声で叫び走るぬいの姿が、
とても印象的です。

遠くに打ち寄せる荒々しいだんばら波の白い波頭、
そして鳴りやまぬ房総の海風、
読んでいるさなかも、もの哀しいそれらが、
ずっと脳裏に見え聞こえする。
そんな感じの小説です。
この小説、けっして明るくはありませんが、
抑えた筆致に滲み出る哀しみの向こうに、
ひりつくように酷い浮世でも懸命に生き抜こうとする人々がいる。
生き抜くこと、それこそが希望そのものだというように。
そのことをあらためて教えてくれる気がします。

そのほかの収録作品

「行き暮れて」
「散り花」
「希望」
「旅の陽差し」
「古い風」
「磯笛」

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2008-12-14(Sun) 19:35| 乙川優三郎の世界| トラックバック 0| コメント 1

コメント

多彩な職種

rainbirdさん、こんにちは。時代小説の中にはいろんな職種があり、それが登場人物の話を作りやすくしているような気もします・・・飾り職人、廻船問屋、渡し人足とか、なんか耳ざわりがいいですね。

2008-12-15(Mon) 12:05 | URL | 松ちゃん #-[ 編集]

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