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時代小説、映画、JAZZ、それらを大人の楽しみとして愛でること。雨の夜の鴉のごとく、耳鳴りとともに日々の悪夢に苛まれつつも。

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人の心の闇へ-藤沢周平「神隠し」

「神隠し」

藤沢周平「神隠し」
(新潮文庫)


昭和49年~53年の間に書かれた短編11編を収録した作品集。
直木賞受賞が昭和48年ですから、
直後の4年間に書かれたものということになります。
藤沢作品の初期のものは結末が暗いというのが相場ですが、
この作品集に収録されている作品もまた暗くやりきれないものが多い。
というより、ちょっと怖いかも(笑)
だいたい主題の多くが人の心の闇、その怖さに迫ったもので、
とくにやっぱ女はコェーわ(笑)と感じる向きもいるのではと……
いや失礼(笑)
でもこの作品集は数ある短編集のなかでも印象的なのものが揃い、
総じて粒よりです。
この短編集を藤沢周平一番の短編集にあげる人もいるくらいですから、
その充実度は推して余りあると思います。
ラジオの朗読なんかにもこの短編集の中から選ばれることも多いようです。
すべての作品をコメントしたいぐらいですが、
ここではとくに印象的だった3編を。

「昔の仲間」

大店の紙屋を営む宇兵衛は以前から腹具合が悪く、
同業の寄合があったその晩に倒れる。
医者の見立てによると胃の腑に腫れ物ができ、
すでに手遅れだと言われた。
余命はあと半年。
覚悟を決めた宇兵衛は身辺を整理すべく、
ひとつひとつ気がかりなものを数え上げた。
店は順調で娘の縁談も決まっている。
気がかりなものは無いはずだった。
だがそのとき一人の男の顔が浮かんでくる。
松蔵という昔の仲間だった。
宇兵衛と松蔵は三十年前に質屋へ押し込みを働き、
四百両という大金を手にし、山分けする。
二人はその金を元手にそれぞれ商売を始めたのだった。
そのとき今後一切顔を会わせないという約束だったが、
もし松蔵が落ちぶれていたら自分が死んだ後、
店に押しかけてくるかも知れない。
そうなれば店は潰れる。
怖れを感じた宇兵衛は、古手屋を営んでいるという松蔵を確かめに行く。
だが、松蔵はとうに店を畳んでどこかへ姿を消した後だった。
宇兵衛はわずかな手がかりを頼りに松蔵を探し始める。

とても上手くできた短編です。
宇兵衛はようやく松蔵を探し当てるのですが、
当の松蔵はとっくに宇兵衛の顔なんか忘れているわけです。
そこへ宇兵衛がやってきて俄に思い出す。
わざわざ会いに行かなければそのまま無事たったのが、
会いに行ったことで途端に思い出させてしまった。
この何ともいえない皮肉(笑)
寝た子を起こすとはこのことです。
結局宇兵衛は松蔵を刺殺してしまい、
松蔵に目をつけていた岡っ引きに捕らえられる。
人生の皮肉を扱った藤沢作品はいくつもありますが、
この短編は構成のうまさでひときわ光彩を放っている感じがします。
長い人生で人はいくつか旧悪を心の中に隠し持つことになりがちです。
それがなにかの弾みで噴き出し、気にかかって仕方の無いことになる。
そういうところを捉えているわけですが、
まあ誰しも覚えのあることですから、
自業自得とはいえ妙に宇兵衛が気の毒(笑)

「疫病神」

腕のいい表具師の信蔵は弟子も二人いて、店も家のなかも順調だった。
そんな信蔵のところへ小間物屋に嫁いでいる妹のおくにが、
行方不明だった父親の鹿十が見つかったと知らせてくる。
姉のおしなの亭主である長吉が、
近くの町にある湯屋の釜番をしている鹿十を見つけたのだ。
鹿十は腕の良い表具師だったが、三十半ばを過ぎたあたりから人が変わった。
飲む、打つ、買うの道楽が始まり、仕事を怠け、意見する女房を殴り倒した。
そのうちふっと姿を消してしまい、それから十八年が過ぎていた。
姉弟が相談した結果、とりあえず信蔵が鹿十を引き取ることになる。
信蔵の家にやってきた鹿十は、
はじめは大人しく孫の相手をしている好々爺のようだったが、
ある日信蔵の弟子に鹿十が金を借りたことが露見する。
そして妹のおくにがやってきて、
鹿十が店にやってきて、五両の金を借りていったこともわかる。
信蔵は鹿十になぜ金が必要なのか問いつめるが……

いやじつに不気味で恐ろしい親爺です(笑)
これほど人の怖さを感じさせる短編は、
藤沢作品の中ではまだ読んだことはありません(笑)
はじめは大人しくしていたが段々と荒廃した人間の本性を現してくる。
あちこちで金を借り、家の金を盗んで博奕につぎ込む。
意見をしても黙って薄ら笑いを浮かべているだけ。
信蔵にとってはもう恐怖です。
その恐怖が増幅してくるあたりがなんともいえない。
結局鹿十が原因で家の中が荒れ始め、信蔵の女房は子供を連れて実家に帰り、そのうち弟子もやめていく。
鹿十の存在が信蔵を徐々に破滅へと導いていきます。
しかし親ですから放り出すわけにはいかない。
まさしく信蔵の背中にぴったり張り付いた疫病神のようです。
まあ、これほどの疫病神というのは実人生では滅多にお目にかかることはないと思いますが、
ここまで書かれると、あらためて人の心の闇、心の荒廃というものにうすら寒いものを感じます。

「小鶴」

神名吉左右衛門と妻女の登米の夫婦喧嘩は派手で、家中でも有名だった。
ささいなことが原因だが、近所に憚りなく、大声をあげて争う。
だからといって二人の夫婦仲が悪いわけではなく、
夫婦仲良く寺参りに出掛けたりもする。
夫婦にとって悩みは跡取りの子供がいないことだった。
ある日仕事に行った吉左右衛門がひとりの若い娘を連れて帰る。
娘は小鶴と名のったが、そのほかのことは問われても答えることができなかった。
どうやら記憶を失くしているようだった。
夫婦は小鶴を家に住まわせ、実の娘同然に可愛がる。
小鶴は美しい娘だった。
夫婦は小鶴を娘として神名の家にそのまま引き取ることを考え始める。
夫婦喧嘩が原因で養子の話など皆無だった吉左右衛門の家に、
そのうち降るように養子縁組の話が持ち込まれ始める。
小鶴目当てのことだった。
気がかりは、夫婦がいつものように喧嘩を始めようとすると、
小鶴が泣いてそれを制止することだった。
ひとつの縁組が決まりかけた矢先、隣国から二人の武士が訪ねてくるが……

この作品、有り体に言えばかぐや姫伝説が下敷きになっている物語です。
ユーモラスでもあり、
子の無い家に突然やってきた若い娘に思い入れする老夫婦が切なくもある。
癇癪持ちの吉左右衛門が小鶴の前では相好を崩したりする場面、
小鶴を伴って外出し、人から美しく気だての良い小鶴のことを誉められると、
自慢げになる登米の心の動きなど、軽妙な描写で読ませます。
そして二人の武士が訪ねてきたことで明らかになる小鶴の過去。
ある事件のトラウマが小鶴の記憶を失くさせている原因だと判明すると、
吉左右衛門夫婦の喧嘩が派手だということが重要な伏線だということがわかり、思わず唸ってしまいます(笑)
本当にうまく書かれてます。
最後は何もかも思い出し、隣国へ去っていく小鶴を夫婦は見送ります。
たしかにかぐや姫伝説はかぐや姫自身より、
かぐや姫を受け入れ、去られる老夫婦の気持ちの方が切ないですね。

このほかにも拐かしに遭った娘を助けに行くと、
娘はちゃっかり拐かしたやくざ者に馴染んでたという「拐し」、
娘の婚礼の夜、長い間連れ添った妻が、若い頃一日だけ姿を消した。
気がかりだった亭主がそのことを聞くと、妻が意外な告白をする「告白」
大店の美しい妻女が行方不明になるが、三日後に何事も無かったように帰ってくる。
だが妻女は行方不明になる前よりいっそう凄艶さを増していた。
その謎を探るひとりの岡っ引きの姿を追った「神隠し」など、
やっぱ女はコェーわ(笑)の面白さてんこ盛りの短編集です。
文庫の解説で伊藤桂一がモーパッサンのことを引き合いに出してますが、
そういう匂いは確かにしますね。
フランス文学を代表する短編小説の名手モーパッサン。
藤沢周平は小山本周五郎だと言われた時期がありましたが、
思うに小モーパッサンだといっても差し支えないと、
そんな風にも思えるほど良く出来た短編集です。

そのほかの収録作品

「拐し」
「告白」
「三年目」
「鬼」
「桃の木の下で」

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2009-01-12(Mon) 19:06| 藤沢周平の世界| トラックバック 0| コメント 0

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