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時代小説、映画、JAZZ、それらを大人の楽しみとして愛でること。雨の夜の鴉のごとく、耳鳴りとともに日々の悪夢に苛まれつつも。

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職人という生き方-佐江衆一「江戸職人奇譚」

「江戸職人奇譚」

佐江衆一「江戸職人奇譚」
(新潮社)


作者である佐江衆一という作家を知ったのは、
1990年に刊行された「黄落」という介護問題を扱った小説だったと思います。
介護の実態を描く、かなり過酷な内容の小説だったにも関わらず、
不思議に静謐な雰囲気を湛える、良い小説だったと覚えています。
この小説から20年近く経っても、老老介護・認認介護問題など、
介護の問題はますます複雑、深刻になってる気がします。
ま、それはさておき、じつはそれ以来あまり馴染みのない小説家でした。
それが最近は書店に行くと、
佐江衆一のコーナーには現代小説より時代小説のほうが多く並んでます。
いつのまにか時代小説家になってるんですね(笑)
佐江衆一自身は古武道杖術師範、剣道五段の腕前だそうです。
それも45歳から始めたとか。
根性無しの我身では、聞いただけで気が遠くなりそうですが(笑)
ゆえにチャンバラシーンの描写には定評があります。
その佐江衆一の第四回中山義秀文学賞受賞作です。
江戸の職人の意地と技の凄み。
読んでいるだけでもゾクゾクとしたものが伝わってきます。
技や作り上げられたものの描写は精緻で、
なにより多岐に広がるその知識に驚きます。
錠前師、凧師、人形師、大工に化粧師など多彩な職人の奇譚編。
講釈師見てきたようなウソをいい。小説は所詮ウソだとしたら、
この職人奇譚、時代は江戸の世にも関わらず、
ついいましがた見てきたような、まことに見事なウソばかりです(笑)
地味だけど掛値なしの佳品揃い。

「一会の雪」

藤沢近くの辻堂で茶店を営むおすぎは、
人並みに優しい亭主の熊造と、独り立ちした息子や娘もいて、
不満もない毎日だった。
おすぎはもうすぐ四十歳になろうとしていた。
そんなおすぎが、ある日店で具合の悪くなった女、
おきくを助け、看病することになる。
おきくは一人前になったら夫婦になろうといい残し、
葛籠(つづら)師の修行に出た伊助を十五年間待ち続けていた。
伊助はこの十五年音信不通だったが、
ついに消息を聞きあて、おきくは病の身をおし、
江戸に居るという伊助を尋ねて旅に出たというのだった。
だがおすぎの看病もむなしくおきくは息を引き取る。
残された行李には、おきくが伊助のために縫った袷が入っていた。
荼毘に付した後、一人の男を思いつづけたおきくの想いに導かれるように、
おすぎはおきくの代わりに伊助を訪ねようと決心する。

おすぎは伊助を訪ね、雪の降る夜、
伊助の裏店に一晩厄介になります。
おきくの代わりに、うらみつらみを言ってやろうと身構えていたおすぎ。
でもおすぎに背を向け、夜なべに葛籠を編みつづける伊助。
一心に竹を編みながら、
しゅしゅッ、しゅしゅッ……という密かに漏れる声。
おすぎはその音を聞きながら、
いつしか自分と伊助が抱き合っている幻想に囚われます。
そして伊助は問わず語りに竹の見極めをほつりぽつりと話し出す。
おすぎもそれに答えてぽつりぽつりと。
外にはしんしんと雪が降り積もっています。
職人として、際限もない精進の世界に入り込んだ伊助に見えていたものは、
女ではなかったんですね。
男として伊助の気持ちは良く分かります(笑)
おすぎはその夜、そんな伊助に一会の恋を見出したんでしょう。
おそらく自分の世界には無かったはずの邂逅が、
おすぎに「違った人生があったのでは」と、
そんなものを垣間見せた夜だったんでしょうね。
なんとなく切ないです。
何事もなく別れた二人の、およそ二十年後のラストのオチが、
短編の醍醐味を味わわせてくれます。
ちなみに葛籠(つづら)というのはつる草や竹で編んだ櫃(ヒツ)です。
衣類なんかを入れたり、小さなものは文箱にしました。

「対の鉋」

雨の中、
茶室の普請に一心不乱に取り組んでいる大工の常吉の背を見ながら、
おさよは息苦しいほどの思いに囚われていた。
日本橋の呉服の大店、山城屋の主だった藤兵衛の妾腹の子であるおさよは、
この小梅村の隠居所に、
老いた藤兵衛の身の回りの世話をするために一緒に住んでいた。
その藤兵衛が隠居所に茶室を建てるというので、
馴染みの大工の棟梁菊造の弟子である常吉が普請を請け負い、
毎日やってきているのだった。
おさよはもう二十六になる。
若い頃、胸をときめかす男がいなかったわけではなかったが、
いまはもう男に縁の無い身だと諦めている。
そんなおさよが三十過ぎの無愛想な大工の常吉に、
心騒ぐものを感じていた。
普請が進むにつれ、常吉もおさよに心を開いてくるのだが、
二人の間にはいっこうに進展がない。
そんなある日、常吉が命より大事にしている対の際鉋の片方が無くなる。

とにかく常吉の仕事ぶりの描写に釘付け(笑)
茶室を建てていく過程の描写が見事です。
作者には文章の上にも関わらず、建ち上った茶室が想像出来ていて、
それにしたがって描写しているのではないでしょうか。
それほど巧緻ですね。
そして職人の道具に対するこだわり、思い入れもたっぷりと描きます。
鋸や鑿はどこの作がいいとか、そしてこの小説の場合、鉋ですけれども、
誰の作でどういう工程で使うか。
その鉋で削られた木味がどうのこうのと。
さながら道具談義といった趣もあります。
こういうところは本当に読んでいて、ゾクゾクするところです(笑)
男は道具好きですから(笑)
おさよは常吉が大事にしている道具をひとつ盗みます。
それはおさよが常吉に見せてもらった、
するどい刃を持った小さな対の際鉋の片方でした。
おさよはそれを見たとき、常吉に自分の乳房にそれを当てて欲しいと、
妙に女の血が騒ぎます。
常吉にとって道具が淫する対象であり、
男にとって道具が玩具や麻薬だと感じた、
女の勘がそうさせたのかも知れません。
道具に対する嫉妬と同時に、
その盗みはエロスの発露だったのではないかと、
そう思います。
女と大工道具、
うーん、深い組み合わせです(笑)

この小説集に書かれた、江戸の職人の姿というのは粋で、
さらに持っている技を駆使する肉体は、粋をもうひとつ通り越して、
エロティックでさえあるといった感じがします。
作者はそう感じているフシがあります。
江戸時代には約百四十種類もの職人がいたといわれますが、
その代表的職人といえば、大工に左官、それに鳶の三職でした。
これを「江戸の三職」とも「華の三職」とも言います。
たとえば大工なんかは一人前になるまでがとても厳しい。
だいたい十二~十三歳で親方に弟子入りし、
掃き掃除から飯炊きにこき使われる。
すぐには仕事なんか覚えさせてもらえません。
それを辛抱しながらだいたい八年くらいでやっと半人前。
大勢親方の弟子になっても厳しいからどんどん脱落していく。
独り立ちするにはよっぽどの辛抱と根性がいったわけです。
「対の鉋」の大工の棟梁常吉は三十過ぎですが、
およそこれくらいなんでしょうね。独り立ちというのは。
でも一人前になれば、
手間賃は普通の町民が稼ぐ倍はあったといいますから、
こたえられない職業です。
左官も鳶も同じでしょうね。
江戸は火事が絶えないから年中ひっぱりだこだし、
実入りが多いと遊びも派手で、「宵越しの銭はもたねえ」なんてね。
この「華の三職」の姿から出たセリフだと思います。
女性にももてたでしょうね。
粋でいなせ。ちょっとおっちょこちょいで喧嘩っ早い。
技を肉体にまとわせ、江戸前のエロスを具現する大工は、
大工(だいく)ではなく、
山本一力ばりにやっぱり大工(でぇく)ですね(笑)

幕末の世に一世一代の解錠を試みた、
天才錠前師の物語である「解錠奇譚」
妻を賭け、時代遅れの鳶凧で、
ライバルの凧師に喧嘩凧を挑む凧師の物語「笑い凧」
天涯孤独な夜鷹と、
若い桶職人のつかの間の交情を描いた「水明かり」
美しい薄幸の人妻に魅入られ、
滅びていく化粧師の物語「江戸の化粧師」など、
この「江戸職人綺譚」なかなか渋くて面白いです。
とにかく様々な江戸の職人の一徹な仕事ぶりの描写には脱帽(笑)
こういうの好きですね(笑)
続編も出てますからさっそくに。

そのほかの収録作品

「雛の罪」
「昇天の刺青」
「思案橋の二人」

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2009-03-28(Sat) 20:32| 読み捨て御免!| トラックバック 1| コメント 5

コメント

こんにちわ

これは、是非読みたいです。
職人の技に魅入られて精進している男の姿は女にとっては寂しさも感じることが多いでしょうが、古いタイプの私にはぞくぞくっという言葉が合っているのかわかりませんが辛くても傍にいたいと思わせるなんとも言えない魅力を感じます^^

2009-03-29(Sun) 14:45 | URL | MIKOTO #WsFg0EVg[ 編集]

ありがとうございます。

職人さんの、道具を大切にする姿を見て
女性が道具に対して、嫉妬を呼ぶ様子が
理解できます。
女性は生活全般に心を配りますが
男性は仕事(当時は?笑)に命がけだった
と言う感覚です。心の底にある性の繋がりに
執筆を持って行く観点が、面白いですね。

余談ですが、時代小説を読み始めました。
rainbirdさんのお陰で、本に戻る事ができました。
ありがとうございます。

2009-04-09(Thu) 22:38 | URL | ふわネコ #-[ 編集]

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2009-04-17(Fri) 07:49 | | #[ 編集]

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2012-04-26(Thu) 04:47 | | #[ 編集]

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2013-02-26(Tue) 19:39 | | #[ 編集]

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